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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)2243号 判決 1970年1月19日

主文

被告が別紙目録記載の債権につき破産者朝日染料株式会社から昭和四〇年九月二一日譲受けた行為は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告は主文同旨の判決を主たる請求として、予備的請求として、主文第一項掲記の行為を否認するとの趣旨及び同第二項同旨の判決を求め、

その請求の原因として、

一、破産者朝日染料株式会社(以下破産会社と称する)は、当庁昭和四〇年(フ)第三〇八号破産事件で、昭和四〇年一〇月八日破産宣告を受け、原告はその破産管財人に選任せられたものである。

二、別紙目録記載の債権(以下本件債権と称する)は、破産会社が権利者として有していたものである。

三、しかるに、右債権については、被告においてこれが譲受をなしたるものとして、昭和四〇年九月二一日附で、債務者である訴外鐘渕紡績株式会社(以下訴外債務者と称する)に対し、破産会社名で債権譲渡通知がなされている。

四、しかし右債権譲渡通知は本来無効である。

(一)  まず、破産会社は右債権譲渡通知に使用せられた通知書を、被告の求めるまま被告に交付したが、右書面を交付するに当つては、債権譲渡の効果意思を有していなかつたものである。破産会社は右書面を昭和四〇年七月一六日頃被告に交付したが、右時期に譲渡債権金額として表示してあるものは、そのままの形では破産会社の第三債務者一社に対する関係では全然存しないものであつた。従つて譲渡不能のものを譲渡することになる訳であるうえ、破産会社が当時有していた訴外債務者、訴外丸紅飯田株式会社、訴外呉羽紡績株式会社に対する各取引上の債権を譲渡したとしても、その債権の選択、特定につき破産会社が被告に一任したこともない。右丸紅飯田株式会社に対する関係では破産会社が常時数千万円を超える債務を負担していたのであつて、系列関係にある親会社に対する若干の債権を取分けて譲渡するがごときことはそもそもあり得なかつたものである。

従つて、譲渡行為なき以上債権譲渡の通知行為は、たとえ対抗要件に関するものであつても、効力を生ずるに由がない。

(二)  次に破産会社が当初仮りに被告に対し、本件債権を譲渡する真正の意思をもつて前記債権譲渡通知書を交付したものとしても、前記時期以後破産会社と被告との計算関係は大幅に変化したので、破産会社において被告に対し間もなく通知書の返還を請求することとなつた。しかるに、被告は右返還請求に対し故なく拒否し、そのまま手中にあつた通知書類をもつて、同年九月二一日附訴外債務者に対する本件債権譲渡通知をなした。右事実は、譲渡通知書の冒用であり、破産会社が当初はともかく、後日譲渡の効果意思を失つているのにも拘らず、被告においてこれを無視してなした譲渡通知行為の瑕疵を形成するものである。

(三)  被告は右譲渡通知書の交付を受けた当時、破産会社が不動産、有価証券等担保となるべき資産を有していないことを十分に知つていた。

被告のみが無担保である一般債権者に先んずる担保の提供を受ける行為は、破産法上の否認制度を潜脱する脱法行為で無効である。

五、仮りに前項の主張事実が認められないとしても、原告は破産管財人として前記債権譲渡行為に対し、破産法に定める否認権を本訴において予備的に行使する。

(一)  破産会社は営業不振のため昭和四〇年九月二〇日支払を停止したが、破産宣告時の債務額は、無担保一般債権者一一二名、債権額合計金一億五、〇〇二万七、七九七円であつた。ところで、被告は金融業を営み巷間の不渡情報には明るい者であるが、支払停止の当日破産会社に電話照会などし、また当時は手形小切手の不渡についてはその有無が翌日の正午以後は取立銀行から知得できる状況であつて、破産会社が支払を停止し且つ他の債権者が存し、更にその際本件債権の譲受をなせば明らかにかかる一般債権者を害することを十分に知つたうえで、債権譲渡を破産会社から受けたのである。

右事由は破産法第七二条第一号に当る。

(二)  仮りに右(一)の事実が認められないとしても、被告は破産会社から支払停止の後に担保の供与たる本件債権の譲渡を受けたものであり、前記のように被告は支払停止の事実につき知つていたものである。

右事由は破産法第七二条第二号に当る。

(三)  仮りに右(二)の事実も認められないとしても、被告は破産会社から支払停止の後に義務に属しない行為として本件債権の譲渡を受けたものであり、前記のように被告は支払停止、及び他の債権者を害することを知つていたものである。

右事由は破産法第七二条第四号に当る。

六、更に前項の主張もまた容れられないとしても、破産会社と被告との間では、本件債権につき前記のとおり昭和四〇年七月一六日頃譲渡があつたものである。ところで被告が右譲渡行為につき対抗要件たる債権譲渡通知を経たのは同年九月二二日のことである。その間に一五日は十分に経過している。しかして被告及び破産会社共に右譲渡通知行為を悪意でなしたものであるから、破産法第七四条に該当の事由が存する。

原告は破産管財人として、破産者の被告に対する権利譲渡に関する対抗要件を取得せしめる行為を否認する。

七、よつて以上いずれかの理由により、本件債権の被告に対する譲渡は無効である。そこで原告は被告との間で、債権譲渡の無効の確認を求めれば足りるから、請求の趣旨どおりの判決を求める。

と述べた。

立証(省略)

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、

原告の請求の原因に対する答弁として、

一、第一ないし第三項の主張事実は認める。

二、第四項の主張事実を争う。

被告は手形割引を専門とする金融業者で、昭和四〇年二月一五日以降破産会社の依頼を受け商業手形の割引に応じたことがあり、同年七月一六日までに次のような取引をなして来た。

<省略>

<省略>

ところで右一連の取引の最後の機会に、破産会社は右一覧表に記載のように自己手形を持参して貸付を依頼して来た。しかしさきに被告が割引いた手形の振出人である訴外三和染色工業株式会社は当時既に信用状態が低下していたので、右単名手形による貸付については、右一覧表に第三回、第四回分として記載してある三和染色工業(株)振出の各約束手形、並びに破産会社の単名約束手形三通の手形が、万一支払期日に支払を受けられないことが生じたならば、これを停止条件として、破産会社が、自ら訴外丸紅飯田株式会社、同呉羽紡績株式会社及び訴外債務者に対して有する各支払期日現存の債権を譲渡するのであるならば、貸付依頼に応じてもよい旨述べたところ、破産会社は、進んで右三通の手形額面合計額相当の金三三九万五、八八〇円、但し染料代金(昭和四〇年九月二〇日現在売掛代金債権、と記入した債権譲渡に関する通知書用紙を一旦受領の後、即日通知人欄に必要な破産会社の住所、商号、代表者名等の記入及び名下の押印をなしたうえ、右用紙を被告に返還し、なお同時に破産会社名の記入のある封筒一通を被告に持参し提出した。

右のような破産会社の行為は、右三通の約束手形の不渡りを停止条件とする債権譲渡契約で、しかも、被告が譲渡を受ける債権の選択は、前記三会社のうちから被告が任意に選択できる趣旨に出たものである。

ところが、前記第三回、第六回の割引に応じた手形金については各支払期日に支払を受けたが、第四回の手形金については、支払期日である昭和四〇年九月二〇日に支払場所に呈示したのに支払を拒絶せられる結果となつた。

そこで債権譲渡通知書の交付を受けた際の右債権譲渡契約の停止条件が成就したので、被告は譲渡を受ける債権につき選択権を行使し、訴外債務者に対する本件債権金一〇〇万円を譲渡債権として特定し、同月二一日附をもつて同会社に対し適式の債権譲渡通知を発する行為に及んだのである。必要な通知書記載事項の加除訂正は正権限に基いてなした。

以上のような経過による債権譲渡行為並びに譲渡通知について原告主張の無効事由がある訳がない。

三、第五項以下の主張事実も争う。

ことに被告は破産会社が昭和四〇年九月二〇日に支払停止した事実は知らなかつたものである。

なお本件債権は訴外債務者において、債権の帰属の法的紛争が終了するまで支払を猶予して欲しい旨の申出があるので、被告において請求手続を中止しているものである。

と述べた。

立証(省略)

目録

一、破産者朝日染料株式会社の訴外鐘渕紡績株式会社に対して有する売掛代金債権金一三一万九、八〇一円のうち金一〇〇万円の債権

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